皇后杯決勝
澤穂希の引退試合である。INAC神戸レオネッサに対するはアルビレックス新潟レディース。女子サッカーは初観戦であったが、見どころの多い好ゲームであった。
試合前のシュート練習から両チームは好対照。INACはペナルティエリアの半円付近のパッサーからワン・ツーを受けゴール正面からのシュート練習、対する新潟は左サイドからのセンタリングを受けてのシュートを繰り返す。神戸には大野、澤、中島、川澄ら、キープ・突破力に優れた選手が多く、センターにボールを入れて相手ディフェンスを切り崩してゴールを狙える。新潟はパスサッカーが持ち味。内外にボールを回して相手を切り崩すスタイルであることに、試合中、思い当たる。
試合前、胸に手を当て遠くを見やる澤がオーロラビジョンに映し出される。スタンドからではあるが、同会場で国歌を斉唱すると自分もうるっと来てしまう。
試合は一進一退の攻防が続き、実力伯仲で見ごたえがあったが、やはり神戸が試合巧者であったという印象。縦一本でもセンターラインの選手への玉の収まりが良く、ライン際の競り合いでもスローインやペナルティーキックをしっかり取ってくる。公式記録でも、計8本のコーナーキックの機会を獲得し、結果的にこれが澤の決勝ゴールにつながる。野球で言えば、しっかり四球や送りバントを決めてくる、堅実な攻めのできる常勝チーム、といったところか。球際の強さやライン割れをマイボールで終われる駆け引きのうまさ、こういったところに国際大会の大舞台での経験値が出てくる。
また、きらりと光るプレイを随所で見せてくれたのは、左サイドバックの鮫島。ともすれば中央突破の多用で単調になりがちな展開に、度々見せるオーバーラップでアクセントを与える。ライン際のキープ力もあり、内と外の二正面攻撃を仕掛けられる相手としては、さぞかしやりづらいだろう。守っても、ワンサイドカットでドリブラーに相対し、中への切り込みを許さない。ペナルティエリア付近のボール処理も落ち着いており、安心して見ていられる。なでしこのスタメンは伊達ではない、さすがである。
試合後、胴上げ・インタビュー・花束贈呈と、皆に決勝ゴールの殊勲を、そして引退の花道を惜しまれながらも祝福される澤選手の笑顔は実に晴れやかであった。公式戦では二度と彼女のプレーを見られないかと思うとこの上なく寂しいが、最後のゴールに立ち会えた幸運を喜びたい。
澤選手、本当にお疲れ様でした。そして、今までありがとうございました。